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脂質メディエーターのはたらき

前回は、脂質メディエーターが細胞膜の脂肪酸から作られ、ホルモンのように体の働きを調整する“メッセンジャー”の役割を持っていることをご紹介しました。


今回は、そうした脂質メディエーターが実際にどのような場面で、どんな影響を及ぼしているのか、もう少し具体的に見ていきましょう。


脂質メディエーターの主な作用

脂質メディエーターにはさまざまな作用がありますが、特に注目されているのは以下の3つです。


① 炎症の「開始」と「収束」の制御

炎症は、体を守るための自然な防御反応です。ケガや感染が起きた際、エイコサノイド(特にアラキドン酸由来のプロスタグランジンやロイコトリエン)がすばやく合成され、血管拡張、発熱、痛みなどの反応を引き起こします。これは「炎症の開始」です。


しかし、炎症が長引くと組織を傷つけ、慢性炎症や疾患の原因になることがあります。そこで登場するのが、オメガ3のEPA,DHAから作られるSPMs(レゾルビンやプロテクチンなど)。これらは炎症を“終わらせる”ための信号を出す役割を果たし、炎症の収束と組織の修復をサポートします。


つまり、脂質メディエーターは「炎症のONとOFF、両方のスイッチを管理する存在」と言えるのです。


② 免疫バランスの調整

脂質メディエーターは、免疫細胞の動員や活性化、沈静化にも関与します。

例えばロイコトリエンは好中球を呼び寄せて免疫応答を強化しますが、同時にSPMが過剰反応を抑え、組織の修復を助けることで免疫反応の暴走を防ぐ役割も持っています。


このバランスが崩れると、自己免疫疾患やアレルギー、慢性炎症性疾患(例:喘息、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎など)のリスクが高まります。


③ 代謝と循環のコントロール

エイコサノイドの中には、血管を収縮・拡張させるものや、血小板の凝集を調整するものがあります。

これにより血流の調節、血圧の安定、血栓の予防など、心血管系の健康に大きく関与しています。


また、脂質メディエーターは脂肪細胞や肝臓にも影響を与えることが知られており、肥満・インスリン抵抗性・脂質異常症など、代謝疾患とも密接に関係しています。


健康と病気のカギを握るのは「材料」と「バランス」

ここまで見てきたように、脂質メディエーターの性質は、その材料となる脂肪酸の種類によって大きく異なります。

  • オメガ6系(アラキドン酸)→ 炎症を促すエイコサノイド

  • オメガ3系(EPA・DHA)→ 炎症を抑えるエイコサノイド・炎症を収束させ組織修復をサポートするSPMs

つまり、脂質メディエーターの働きは、私たちが日々の食事から摂取する脂肪酸の「質」と「バランス」に大きく左右されるのです。


食生活の乱れが体調不良や病気のリスクを高める背景には、こうした“分子レベルでの調整機構”が関係しているのです。



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