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脂質メディエーターってどんなもの?

前回は、必須脂肪酸であるオメガ3とオメガ6のバランスが細胞膜の柔軟性や透過性に大きく影響を与えるということを書きました。


今回は、細胞膜リン脂質に含まれる脂肪酸から作られる「脂質メディエーター」についてのお話です。


脂質メディエーターとは?

脂質メディエーターは、体のさまざまな調整機能に関与する生理活性脂質の総称で、体内で起こる炎症や免疫反応、血流調整、組織修復などに深く関わっています。


体内では、常に食べ物の消化吸収、エネルギー生成、異物の排除などさまざまな生命活動が行われており、それらを円滑に保つために「恒常性(ホメオスタシス)」を維持する必要があります。


自律神経系、免疫系、内分泌系(ホルモン)などがこの維持機構を担っているのはよく知られていますが、脂質メディエーターもその一翼を担っている重要な存在です。


脂質メディエーター『局所ホルモン』とも呼ばれますが、厳密にはホルモンではなく、ホルモンのように体を調整するホルモン様物質です。



主な脂質メディエーターの種類

脂質メディエーターにはさまざまな種類がありますが、食事で摂取する脂肪酸と深く関係するのは主に2種類です。


① エイコサノイド
  • 炭素数20の不飽和脂肪酸(主にオメガ6のアラキドン酸やオメガ3のEPA)を原料とし、

  • プロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどに分類されます。

  • 炎症や血小板凝集、血管拡張などの急性反応の制御に重要な役割を果たします。


エイコサノイドは、アラキドン酸やEPAなどの脂肪酸から作られます。

アラキドン酸由来のエイコサノイドは、炎症や血栓形成などの反応を強く促進する作用があるのに対し、EPA由来のものは構造が似ていても、作用が穏やかで抑制的なものが多いのが特徴です。

この違いが、オメガ3脂肪酸の摂取が「炎症体質の改善」につながる科学的根拠のひとつとなっています。



② SPM(Specialized Pro-resolving Mediators)
  • レゾルビン、プロテクチン、マレシンなどが含まれます。

  • オメガ3脂肪酸(EPAやDHA)から作られ、炎症を“しずめて解決に導く”方向に働くメディエーターです。

  • 怪我や感染の治癒後に「炎症を引きずらない」ために重要な役割を果たします。


生体膜から切り離されて脂質メディエーターへ
生体膜から切り離されて脂質メディエーターへ
ホルモンとの違い

ホルモンは特定の内分泌腺(甲状腺、副腎、卵巣など)から分泌され、血流に乗って遠隔の標的臓器に働きかけます。

これに対して、脂質メディエーターはほとんどの細胞で局所的につくられて、自分自身もしくはごく近隣の細胞に作用します。


例えて言うなら、ホルモンが“全身ネットワークの手紙”だとすれば、脂質メディエーターは“近隣でやりとりされるメモ”のようなものです。



食生活と脂質メディエーターの関係

脂質メディエーターの原料となるのは、私たちが食事から摂取する脂肪酸です。


特に、オメガ6とオメガ3のバランスが重要で、このバランスが崩れると、つくられる脂質メディエーターのバランスも崩れてしまいます。


現代食はオメガ6過剰、オメガ3不足になりやすく、そうなると炎症を促進するメディエーターばかりが作られてしまい、慢性炎症や生活習慣病のリスクが高まります。

そのため、日常的に脂質バランスを意識した食事を心がけることがとても大切です。



次回は、脂質メディエーターが体内でどのように働き、健康や病気にどう影響するのか、もう少し具体的なメカニズムについて掘り下げていきます。

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